太極拳の〝太極〟とは?
冬らしくない、暖かな日が続きますね。
コロナのこともありますが、こんな時こそ体調には気をつけて過ごしていきたいものです。
今日は太極拳の『太極』とは、どういう事かについて書いてみたいと思います。
ご興味のある方は、お付き合い下されば幸いです。
一般的に、太極拳の〝太極〟とは「宇宙、そして万物の根源である」という様に解釈されています。
また、〝世の中の全てが太極という状態から始まる〟というように理解されています。
そして太極には、❝最初❞とか、❝始まり❞という意味も含まれており、また、❝円❞という意味も含まれます。
中国北宋時代の儒学者として知られている、周 敦頤(しゅうとんい)は、
「太極図説」(たいきょくずせつ*1)において、太極は ❝無極❞ から生まれたと解釈しています。
つまり、世の中の全てが ❝何もない無極❞ という状態から少しずつ変化して、❝太極❞ という状態になり、そして更に色々な変化を経て様々な形となって行くということです。
簡単に言えば、〝すべてが無から有へ〟となっていくのです。
ここで、少し分かり易い例を出してみます。
例えば〝太極拳〟を始める人に当てはめて考えてみます。
太極拳を始めようとする更に前の状態では、殆ど太極拳のことは知らず興味も持っていないとします。
この状態が「無極」に当たります。
そして、テレビや映画、インターネットなどで何等かの情報を得て〝太極拳をしたい〟という気持ちになったとします。
この時にはやりたい気持ちと、やりたくない気持ちと半々あるわけです。
このモヤモヤ半々の状態が「太極」の状態といえます。
そして、その次は「陰陽」に分かれる状態になります。
「陰陽」とは、つまり、そのやりたい気持ちまま ❝太極拳を始めれば陽❞ になり、❝やらなければ(別の方へ行けば)陰❞ になる、という状態のことです。
そして、更に練習を行う内にそこから変化して入門の段階に入り、続けることで徐々にレベルアップして、また色々な状態へと変わっていくのです。
勿論、途中でやめればまた無極の状態に戻り、又別に何か始めれば太極の方へと変わって行きます。
その後、また陰陽に分かれて行きます。
そして『太極』という言葉は元々、易経(えききょう:易学とも呼ぶ)を解釈した本、十翼(じゅうよく)の中の一つである繋辞伝(けいじでん)に出てくる言葉です。
(著者は孔子*2となっているのですが、定かではないようです)。
易経とは中国の古典書物で、一般的に占いの本として知られていますが、一方では哲学的な本としても有名で、中国文化の基本となっています。
易の内容は簡単に説明すると、最終的には64種類(六十四卦ともいいます)の変化となり、これを用いて占ったり、社会現象を哲学的に考えたりします。
つまり、太極はこの64種類の変化の根本となっているのです。
(▼更に詳細をお知りになりたい方は下記をご覧ください。)
では、この64種類(64卦)の変化はどの様にしてなったのを見てみましょう。
見方としては、下記の3つの図の一番下から上(図1~図3)へと見て行きます。
<図3>
▲<図3>は、図2から変化して64種類(64卦)になったものです。
<図2> ▲<図2>は、<図1>の最上部の「八卦」を表したものになります。
<図1>
(引用元:八卦生成図/六十四卦/八卦太極図/)
<図1>では、一番下の無極から太極が生まれ、陰陽に分かれて(両儀)、陰の中にも陽があり陽の中にも陰がある(四象)、という状態の変化を表しています。
更に、下記の図は陰陽のマークですが、これで説明すると、
外枠の丸いのは無極で、全体図が太極で、その左が陽、右が陰となり、その中の反転する小さな2つの円が、陽中の陰と陰中の陽を表しています。
<太極図>
(▲この図は中国の古典書、四庫全書(しこぜんしょ*3)に掲載されている、正確な陰陽太極図とされているものです。 引用元:太极图唯一正确的画法)
そして<図1>では、太極は一番下の無極から始まり、色々と変化して最終的に64種類となった、というわけです。
これが今日の万物になったとされています。
加えて、万物はその根源である「陰」と「陽」の両面を内在しているということです。
一番下から上へ見て行くというのは易の考え方で、世の中のすべてが植物のように下から始まるという意味に考えられます(下から上へ伸びて行くと、私は理解しています)。
そしてこの図において見て頂きたいのは、中身の詳細ではなく、全体の大体の流れです。
つまり、「 ❝無極❞ ➡ ❝太極❞ ➡ ❝陰陽❞ ➡ ❝八卦❞、そして❝そこから様々に変化していく❞」という流れをご理解して頂ければと思います。
そして、〝太極拳ではこの原理に従って拳の仕組みを解釈した〟のです。
少し難しくなって来たと思いますが、
太極拳の動作において具体的にいうと、
「無極」とは ❝最初はただ単に立っている状態❞ で、
そして「太極」とは ❝最初に始まる動作❞
ということになります。
つまり最初に、左足を左側に開いて立って、動作を始めた状態が❝太極❞ です。
これは〝太極式〟ともいいます。
そして、太極拳はここから始まるということです。
更に ❝太極❞ の次には、左足か、あるいは右足に体重を移動させて、両手もそれに従って最後まで色々な動作を行い〝変化していく〟ということです。
この体重の移動が「陰」と「陽」になります。
その他に、開合(かいごう)、虚実(きょじつ)、剛柔(ごうじゅう)、蓄発(ちくはつ)などの変化があり、いずれも ❝陰と陽❞ に分けることができ、動作を理解するのに役立ちます。
易において〝万物の元が太極であり変化していく〟ということは、正に太極拳は拳法の動きを使って〝ゆっくりと身体を変化させていく〟という、太極の理論にピッタリ当てはまる健康法である、と捉えられます。
(しかし、今日では太極拳において陰陽の話が用いられることは少なく、これを用いて説明するとなると逆に分かりにくい状態となってしまいます。そのため説明はせずに、とにかく太極拳の動作を行うことが主流となっています。)
以上が、簡単に『太極』の説明でした。
如何だったでしょうか。
また更に、易の理論に基づいた太極拳の詳細については、別の機会にでもお話しできればと思います。
ちょっと哲学的な内容となりましたが、太極拳について少しでもご興味を持って頂ければ嬉しい限りです。
(▼以前に書いた記事です。良ければ併せてどうぞ。)
それでは、最後までお読み下さり、ありがとうございました。
非常感謝!