『中国武術』の山ほどある種類 ~速い武術・拳法編②
こんにちは。
夏も終わりに近づき月日があっという間に過ぎるのを実感していますが、柄にもなく愁いを感じる今日この頃です。
今日は、 ❝中国武術(カンフー)とは何か❞ ということを考える上で基本となる『中国武術の種類』の第2段を書いてみたいと思います。
以前の続きとなりますが、中国武術はまだあまり知られてなくイメージしずらいと思うので、映画の中での例やオリジナル表演動画なども入れています。
マニアックな内容ではありますが、ご興味のある方はお付き合い下されば嬉しいです。
この「中国武術の種類」というものは本当に沢山あるといわれていて、
現存するものだけでも400種類以上あり、如何に地域が広く歴史が長いかということがわかると思います。
それが〝正に中国武術の魅力の一つ〟となっていますが、種類が多いことにより飽きずに練習ができる上、身体の機能向上にも繋がるといった魅力もあります。
▼前回の記事はこちらになります
今回は以前と同様に「私の教室で教えている武術の種類の一部を、初心者でも分かるように私の解釈で分類してご紹介」します。
(一般的によく使われる競技用の分類や中国地域による分類法は、初心者の方には難しい為、本当に簡単に分けています。専門家の他の先生には叱られそうですが😅あくまで私のブログ上での方法です。宜しくお願いします。)
中国武術 ~速い動作のもの~
まずは中国武術をざっくりと
❝速い動作の武術❞と❝遅い動作の武術❞に分けて考えてみます。
そして中国武術には、拳法*2以外に様々な武器があり、❝拳法❞と❝武器❞の2つに分けて見ていきます。
以前は『速い動作の武術 ❝拳法❞』の中の5種類の ❝長拳❞ をご紹介しましたが、今日はその続き(6番目から)となります。
速い動作の拳法
6. 南拳(なんけん)
南拳は中国の長江以南で行われる武術の総称であり、アクション俳優のジャッキーチェン氏が行っていたことでも有名である。
海に面した中国南方では船で移動する交通手段を用いていたことから、船上で戦うことを想定して作られた拳法であり、両脚を踏ん張る姿勢の動作が見られる。
拳を打ち出す時に、ハイーや、ウォーなどと声を発して威嚇を行ったりする。
俊敏に足腰を使い、力強く精妙な前腕技術を得意として、虎のように爪を立てる(虎爪:こそう)動作や、手を鶴のくちばしの様にする、あるいは蛇の様に両腕を使うといった前腕動作がある。
南拳には、上記のように動物の動きを取り入れた❝象形動作❞ が含まれる拳法の他、洪家拳、蔡李佛家(さいりふっか)拳、白鶴拳、虎拳などがある。
低い重心で行う力強い拳法であり、練習を重ねることにより足腰の筋力強化や、心肺機能が高められる。
【以前に撮ったものですが、教室で演武をした時の動画です。これは生徒さんの練習用としてオリジナルに作った南拳です▼】
7.詠春拳(えいしゅんけん)
南拳の一つであり、清の時代に広東省を中心に広まった徒手武術で、多彩な手技が中心である。
創始者については6つ程の説があるといわれ、どれが本当かはよく分かっていない。一般的によく知られているのは、厳詠春(ゲン・エイシュン)という女性が、鶴と蛇が戦う姿を参考に作ったという説である。
技術的には短橋狭馬(たんきょうきょうま)*5という、両脚を内股にして歩幅を狭くして、胸の前で腕を短く使い技を繰り出す(要するにショートパンチ)動作を特徴としている。
練習に人を象った木の人形である木人樁(もくじんとう:ジークンドー)を使用するといった所も、ユニークな特徴の一つ。
(❝木人樁❞はなんと、アマゾンでも購入できます。ちなみに私は持っていません▼)
Amazon | 木人椿 詠春拳 ジークンドー 170cm | Franklin | スポーツ&アウトドア
(出典:映画「イップマン」より)
世界的に有名なカンフースターであるブルース・リーが学んだことでも非常に有名であり、その師匠であるイップマン(葉問)は、葉問派詠春拳を香港で一大門派へと発展させた著名な武術家で、映画『イップマン』シリーズの題材ともされている。
こうしたことから、中国武術の中でも特に名の知られた拳法ともいえる。
【ドニー・イェン氏演じる映画『イップ・マン』の詠春拳の映像です。このシリーズは殆ど観ましたが、とても面白いのでお勧めです。▼】
8.螳螂拳(とうろうけん)
螳螂拳と一口に言っても門派が沢山あり、大分すると北派*6と南派*7に分けられるが、一般的に螳螂拳というと山東省の北派のものを指すことが多い。
最も有名な創始説は、中国山東省出身の武術家、王郎(オウ・ロウ)氏が、螳螂(カマキリ)の動きの特徴から悟りを得て作られた拳法であるという説である。
特徴としては螳螂ようにリズミカルに獲物を狩る動作を技に組み込み、小刻みに身体を揺らしながら絶妙なコンビネーションで手技と足技を繰り出す所にある。
力強さとスピードが求められる拳法であるが、細密な手技を繰り出す為に瞬発力が養われ、全身を大きく展開させて使う為、筋骨が鍛錬される。
(昔のことでお恥ずかしいのですが、私は13歳の時にこの螳螂拳にて中国全土の大会で優勝をしました。写真右側はこの頃の私ですが、今も一番得意な拳法です。)
【私の弟ヤンピンの若い時の表演動画です。面白い動作の武術ですので是非ご覧ください。徐言平(ジョ・ヤンピン)「螳螂拳」演武/出典:成沢正治氏、中国武術研究院 横浜武術院映像資料▼】
【以前もご紹介しましたが、割と最近に行った私の表演動画です。これは「梅花螳螂拳」と「七星螳螂拳」を合わせたものになります▼】
9.形意拳(けいいけん)
形意拳の創始者については諸説あるが、一般的には、明の末、清の初め頃に中国山西省永済市の、姫際可(キ・サイカ)氏によって創始された説が有名である。
現在の形意拳はその後の清朝時代に、河北省深州市の李洛能(リ・ラクノウ)氏によって完成されたものだと言われている。
その内容は中国の古典哲学である陰陽五行の摂理に基づいて創作された、5種類の基本拳法(五行拳)*8と、その応用型として、更に12種類の動物の動きの特徴を取り入れて、作られた拳法(象形拳)*9がある。
動きの特徴は、拳を打つ時に重心を後ろ足に載せ(三体式という姿勢)、踏み込んで肘を伸ばしきらずに打つ所にある。短い距離にて強い力を出すというものである。
続けて練習を行うことで、身体全体のバランスが良くなる、パワーが強くなる、姿勢が安定する、などの効果が望める。
【これは、徐其成(ジョ・キセイ:中国武術家・徐言偉の父)が、1988年に来日した時、京都で行った表演の動画です▼】
長くなってきましたが、今回は以上のご紹介でした。
拳法だけでもまだまだ種類は沢山あるので、又次回に続けたいと思います。
それから、以前にも書いたので繰り返しとなりますが、ここでいう〝速い拳法〟の定義とは、
スピードを出しながら蹴りやパンチ、跳ねたり跳んだりして技を繰り出す、連続動作の拳法のことを指しています。
これは主に無酸素系の運動となり、様々な部位の筋力を鍛えるほか、瞬発力、跳躍力、平衡力、柔軟性等を向上させることができます。
また、それぞれの拳法は身体の使い方が異なる上、かなり複雑な動きをするので、マスターする為には当たり前ですがそれなりの時間を要します。
そうした意味では総合的な能力が必要となりますが、
但し〝健康づくり〟を目的とした場合においては、各自の身体能力に合わせて多少スピードを落としたり、技を短くしたり省略したりして、個々に合わせて練習を行うことが可能です。
私の教室ではそのようにプログラムを作り、 能力も年齢も違うといった様々な生徒さんの健康のお役に立つ武術のレッスンを心掛けています。
こうしたことで、中国武術が持つ文化の魅力と、健康にもたらす効果といったものをより多くの方に伝えることが出来れば良いと考えています。
(武術はなぜ健康に良いのかということについても、以前に少し書いています▼)
ということで、かなりマニアックな内容なので文章で伝えるにはやはり限界がありますかね。でも、最後までお読み頂きまして、本当にありがとうございました。
次回も引き続き〝速い拳法〟をご紹介できればと思いますが、またお付き合い下されば幸いです。
謝々謝々~!
*3:中国武術をもとにしたスポーツ競技であり、国際的には武術(ウーシュー:Wushu)と呼ばれ、日本では「武術太極拳」という名称で呼ばれる。採点式の表演競技。
*4:制定拳とは武術太極拳競技の長拳、南拳、太極拳のことで、各派の武術を競技スポーツに編集したものであり、動作が統一されたもの。
*5:橋は手腕を意味し、馬は足の歩型や歩幅を意味する。馬歩のこと。
*6:硬螳螂と軟螳螂に分かれ、硬螳螂の中にも分派があり、代表的なのが梅花螳螂拳と七星螳螂拳である。軟螳螂には六合螳螂拳の一派のみがある。
*7:広東の螳螂拳を南派螳螂拳と呼び、周家螳螂拳や朱家螳螂拳などがある。
*8:劈拳:へきけん(金)、崩拳:ほうけん(木)、鑽拳:さんけん(水)、炮拳:ほうけん(火)、横拳:おうけん(土)
*9:龍、虎、鷹、鷂(ハイタカ)、燕、馬、猴、鶏、蛇、熊、鼉(呉音:ダ/揚子江ワニ)𩿡(呉音:ダイ/鷹の一種、鷹より大きい鳥)